所と定めた裏の空地へつゝ立つてゐると、来るもの悉く、また集合かと云はぬばかりの馴れきつた調子で、相手をみつけては何やら喚く。なるほど老若男女とは云ふものゝかうしてみると、屈強な青年と年頃の女は一人もゐない。なかには純然たる農夫ではない、云はゞ職人といふやうなタイプの男もゐて、これが目立つ。私の袖に巻いた腕章をわざわざのぞきに来て、字が読めるといふところを見せたがるものがある。「従軍作家」なる文字をなんと解したであらう。
突然、私の耳もとで女の声がする。それは怪しげな発音ではあるが最初のひと言で日本語だといふことがわかり、私はその女の顔を見つめた。三十そこそこの、色は黒く日にやけてゐるけれども、どことなく小ざつぱりしたおかみさんであつた。
「ほう、あんたは日本語が話せるのか」
と、私は不必要な念を押した。
彼女は、下町風なからだのこなしよろしく「わたし、上海で日本人のところにゐました。日本の兵隊さん来てくれて、大へんうれしい。みんなよろこんでゐる」
とのこと、私は、それにかまはず、
「上海でどういふ日本人のところにゐたの?」
「船の会社……わたしの主人、船の会社……えへゝゝゝゝ」
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