危険を敢て懼れぬといふ面魂でもなかつた。宙をさ迷ふその眼付、かすかにふるへる頬の筋肉、物言ひたげな唇の動き、そして、時どき家の方を振り返る無器用な身ぶりは、この人物の肚の中のなにひとつを語らないにせよ、これは少くとも「敵」として取扱ふべき男ではないと考へられた。
幸ひにして桂班長がやつて来て、この男にこんな用事をいひつけた。
「お前はこれからこの部落の人間を全部こゝへ呼び集めろ。みんなに云つてきかせることがあると云へ。若し出て来ないものがあつたら、日本軍はその家を焼き払ふからと、さう云へ」
どうするかと思つてみてゐると、その男は急にホツとしたやうな笑顔を作り、首をなんべんも振り、いそいそと出掛けて行つた。しばらくすると、近くのものがもうそこへ集まつて来た。広い耕作地を区切る四方の森のかげから三々伍々、老若男女の姿が現はれ、畔道伝ひに、いづれも急《せ》かず慌てず、殆ど一定の距離をおいてつながつて来るその光景は、またとなく珍しく、なにかお祭りのやうな粛然とした華やかさであつた。
私がそれらの村民の一人々々を、そしてまた、彼等が互にそこで落ち合つて挨拶を交す有様を見ようと思ひ、集合の場
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