は凜然と闇の中に響く。隊長は窓に顔を近づけて、ぢつと歩哨の姿に見入る。
「ご苦労」
 沿道には明りといふものがまつたく見えず、犬がしきりに啼く。
「敵はもう勘づいてるでせうね」
 私は隊長の顔をみた。
「むろん勘づいてます。たゞ、部隊の移動方法を複雑にして、作戦の主要な点を覚らせないやうにすればいゝのです」
 やがて小さな部落にはひると、そこが軍工路守備隊のゐるところで、今日の攻撃の左翼隊指揮官斎藤○尉が、本部の到着を待つてゐる。
 道路の片側に叉銃休憩してゐる一隊がわれわれと共に、これから進発する部隊だといふことがわかる。
 農家のひとつが守備隊の本部宿舎にあてられてゐて、急造の寝台に支那風の蚊帳が吊したまゝになつてゐる。石油ランプの光りの下で、熱い茶をいつぱい飲み、小声で何やら囁いてゐる隊長と、それに耳を傾けてゐる斎藤○尉の緊張した表情をぼんやり眺め、私は努めてこれらの人々の邪魔にならぬやう心掛けねばならぬと思つた。
「さあ、出掛けませう」
 隊長に促されて私は外に出た。
 乗馬が三頭、そのうちの一頭は私の分である。前もつて歩くのは駄目だと断つておいたので、かゝる分に過ぎた待遇を許
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