整へて二階のヴェランダに出た。
月明に照し出された楊州の街は、静かに眠つてゐる。寒いといふほどではないが、夜気しんしんとして身に沁み、拍車をつけた靴が重い。
副官は、その当番の今井一等兵を私のために特に本部一行のうちに加へてくれる。
今井君は、偶然、東京の私の住ひを知つてゐるといふ。わけを訊くとその筈である。伯父さんが西荻窪の金物商で、同君はその店でずつと働いてゐた青年なのである。
「弁当と鉄兜は私が持つて参りますから」
「どうもありがたう」
小川隊長は、私に、寒ければ自分のマントを貸さうと云つてくれたが、私は内地を出る時義弟の吉田大佐から古い将校マントを貰ひ受けて来てゐるので、それを出して着た。
本部の前には自動車が用意されてゐて、私は隊長と同乗を命ぜられた。桂班長も同じ車であつた。
城門を出ると、邵伯鎮に通ずる一直線の軍工路が続いてゐる。こゝにも所謂国民政府の軍事施設が及んでゐるのである。途中、大きなクリークにかゝつてゐる立派な橋を二つ越えた。いづれもわが軍の歩哨が立つてをり、隊長の車はその前を徐行して親しく敬礼を受けるやうになつてゐる。
「異状ありません」
歩哨の声
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