裏をかく手も考へられてゐるし、敵に十分の用意をさせて、一挙に殲滅的効果をあげることもある。
一人の将校は急に起ち上つて部隊長と私とを等分に見比べながら云つた。
「先日の討伐で戦死しました○○のことを、ひとつ文芸部の方に書いていたゞきたいのでありますが……」
これらの将校たちは、何れも楊州からほど遠い敵前の部落に駐屯して、守備の任務についてゐるのであつて、小数の部下と共に、有力な敵を制圧し、住民を手なづけ、情報を蒐集し、農村に於ける自治体の速かな結成を促す重大な力となつてゐるのである。
三輪○尉の部屋が明いてゐるので、私は、その夜、本部に泊めてもらふことにした。
すると翌日、小川部隊長は私に匪賊討伐を実際に見たければ見せてやるがと云ふ。それは、今夜十二時に出発して、東北方約二十キロの喬野といふところにある敵の陣地を襲ふのだ。本部と一緒にゐればまづ危険はないと思ふし、馬の用意もさせておくからと、ごく気軽に勧められて、私は、是非行きたいと答へた。
そのうちに××の桂班長も打合せに来た。
この前の討伐にやはりついて行つて、部隊長と一緒に弾丸のなかを潜つた話などして聴かせる。
「宣
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