をした住民が、道の上を往つたり来たりしてゐることである。水害を免れたらしい田畑には、若い女たちの野良姿も目につき、川べりで子供を遊ばせながら、煙管を啣へた老人がわれわれのバスを見送つてゐる。
城外に近づくと、そのあたり一帯は墓地の連続である。楊州の墓参風景は支那名物のひとつだと聞いてゐたが、なるほどこの土地の広がりを、群集と花と線香の煙が埋めたとしたら、それは一種の奇観に相違ない。
城門を潜ると、支那人はみんなおろされた。衛兵の取調べを受けることになつてゐるのである。
バスは警備隊本部の前までわれわれを運んでくれる。城門からこゝへ来るまでの広い通りは、近年新しく広げられた道で、楊州唯一の自動車道路ださうである。両側には店舗は殆どなく、学校、兵営、官舎、その他、医者の看板など出した住宅風の建物が並んでゐる。
警備隊本部は、旧旅団長官舎だといふことだが、小ぢんまりした洋風のヴィラで、前庭に面したホールへ私は先づ通された。
部隊長は今会議中だからしばらく待つようにとのこと、本部附の兵士たちが、眼の前でさつきの袋を開け、郵便物を撰り分ける表情の面白さを飽かず眺めてゐた。
副官が「ど
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