あります。本部勤めで連絡のためこれから上海へ参りますが、二三日中に帰ります。何れあちらでお目にかゝります」
名刺には陸軍歩兵○尉三輪光広とある。そして、奇縁と云はうか、この将校の連れてゐる当番が、自ら名乗るところによると、私は不幸にしてまだお目にかゝつたことはないが、同業渋川君の令弟にあたる、山崎重久といふインテリらしい青年であつた。
鎮江へ着いたのが十一時、こゝで私は汽車を降りねばならぬ。揚子江の対岸の六※[#「土へん+于」、第4水準2−4−61]へ渡るために、これから碇泊場へ行くのだが、駅の改札口を出ると、私はしばらく茫然と立ちすくんだ。自動車の影は一台もみえず、碇泊場までは一里近くあるといふ。荷物さへなければ歩くこともできるがと、そのへんを見廻してゐると、兵站の腕章をつけた一将校が運よく通りかゝつた。
私はこゝで兵站部の厄介になつた。昼食をすまし、荷物の一部を預け、車で碇泊場へ送つてもらふ。宮崎勇治氏の好意ある計ひであつた。
埠頭には、もう××汽船の旗が樹つてをり、その連絡船がいま出ようとしてゐるところであつた。
警備隊本部
小蒸汽は船員も支那人、乗客も大
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