を企図してゐる。避難民の復帰状態は大体良好であるが、九月二十日頃より、青年男女の数が著しく増したやうである。民衆の向背はこれによつて略ぼ判断の基準を与へられる。皇軍の軍紀粛正であるといふことが何よりも彼等の信頼を増し、ある地区の守備隊長が交迭した際の如き、村民が泣いて別れを惜しんだといふ例もある。道路愛護の運動も金壇・※[#「さんずい+栗」、第4水準2−79−2]陽間には既にその組織もでき、治安上大なる効果を挙げつゝある。敵は橋梁などを破壊する毎に必ず宣伝ビラを撒いて行く。こつちは、新しい占領地に野菜の種を蒔く。部隊の自給自足は今から心掛けねばならぬからである。
 三国氏のこの話は、私にとつて非常な参考になつた。いろいろ土地の名前も出たが、何処がよからうといふ相談はわざとしなかつた。
 そのうちに、山崎が、自分で用事の序があつたからと云ふので出掛けて来た。今日おろしたばかりの新しい車で、彼は私をその部隊の兵舎に連れて行つてくれた。支那軍の兵営をそのまゝ使つてゐるのだから、すべてが平時の落ちつきを保つてゐる。部隊長室でしばらく話をしてゐると、この隣りが有名な軍官学校で、その跡へやはり同期
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