軍第五師陣亡将士紀念塔といふのが建つてをり、そこからは九江の街が広く見渡せる。植ゑて間もない樹が、何れも馬を繋ぐために背丈ほどのところで切られてゐる。かういふところばかり見て廻つてゐると、なにも見ないのとおなじになるといふ気がして来た。
宿舎のヴェランダから暮れて行く南方の空を眺めてゐると、廬山の峰々を掠めて、絶え間なく飛行機が去来する。なかには、頭のすぐ上を低く飛んで行くのもある。水面で魚をねらつてゐた鳶の群が悠々とその後へ舞ひあがつて、ひとくさり空中戦の真似を演じる。
瑞昌南方の山岳地帯で、わが○○部隊が敵の包囲を受け、弾薬糧食を空中から投下してゐるのだといふ噂が伝はつて来る。
私の胸はしめつけられるやうだつた。その晩は、いつまでも眠つかれなかつた。
楊州へ
十月十七日、私は連絡機の便を得て、南京へ飛んだ。
こゝで私はいゝ通訳をみつけて小学校の先生たちと少し話をしてみたいと思つたが、××××は丁度忙しい最中で、その係りの人にも会ふことができず、私は諦めて地図を頼りに街をぶらぶら歩きまはつた。しばらくの間に南京も目立つて賑やかになつたやうだ。大通りの真ん中で、
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