で、私は、一行と別れて先に九江へ帰ることにした。
私は、このへんで団体行動を打ち切つて、単独に見たいところを見て歩かうといふ気になり、その計画にとりかゝつた。
第一線部隊の何れかについて漢口に向ふといふ案は、先づ、向ふ一ヶ月の暇が必要であらう。私にその暇はない。
九江に腰をおちつけて、復興建設の過程を詳しく見るといふ案については、これは相当時間がかゝるし、殊に、自由に歩きまはる脚がなくては駄目である。結局、こんな大きな街はどうにもならぬ。南京なら車は勝手に使へるが、個人を対手に調査や見学の便宜を計つてくれるやうな機関が何処にもない。殊に今のところ、軍隊と民衆との接触面が比較的日常の姿で眼に映り易い場所を一番私としては選びたいのである。その軍隊はまた、敵のゲリラ戦術なるものに対して如何なる方策を取りつゝあるかといふことも是非この眼で見ておきたい。
そんなことを考へながら、南京への便を待つことにした。
五十嵐部隊長の好意で、時々自動車を差向けてもらひ、一行の誰彼を誘つて、あちこちを見て歩いた。そのうち、やはり、アメリカ宣教師の経営する女学校と産科の病院が最も印象に残つた。なんと
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