口へはひる時にはおれが連れてつてやらう」
 翌日、われわれの一行が船へ乗り込むと、そこには憲兵が○名ちやんと控へてゐた。「ご一緒に参ります」といふ。
 船は「陸軍の軍艦」と呼ばれる○○○船で揚子江作戦の重要な役割をつとめてゐる特殊部隊に属するものであつた。部隊長を囲んでわれわれは甲板に集つた。幕僚が陸軍としての船舶運用に関して興味のある話を聞かせてくれる。
 全国から徴発した民間の漁船が、今度の戦さでどんなに役に立ち、乗組の漁夫たちも、兵士と同様、勇んで困難な仕事に従つてゐることが如何に見あげたものであるかといふことを知り、これも是非国民は知つてゐなければならぬことだと思つた。
 まだ砲声がすぐそこで聞える武穴に一旦上陸、○○部隊本部で昼食のご馳走になり、揮毫攻めにあひ、われわれはやつと二時すぎに馬頭へ送られた。
 前線からの迎ひの自動車は、さつき来たには来たが、何処に待つてゐるのかわからぬといふので、案内の松岡中尉が八方へ電話をかける。夕方になつて、やつと、一時まで待つたが一行の姿が見えないので引上げたといふことがわかつた。それと同時に、前夜既に、隣接部隊が渡河を決行し、○○部隊は予
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