る。数千の紙片は、殆ど塊りのやうになつて、機体をすれすれに逃げる。二三枚は、尾翼に縋りつく。塊りは次第にほぐれる。鳩の群れのやうに飛び、吹雪のやうに散る。支那兵は、それの一枚一枚を拾つて読む。自国の到るところに反蒋運動が起つてゐることを知らされるのである。
編隊は徳安の南方永修附近で、大旋廻をして再び機首を北に向けた。第二回の爆撃が、同じ※[#「虫+礼のつくり」、第3水準1−91−50]津街の上に加へられた。敵は、地上から若干の応戦をしたらしいが、私は気がつかなかつた。戦闘機でも飛ばして来るのであつたらそれこそ油断はならんが、そんなおそれがあるとすれば、われわれの同乗は勿論許されなかつたであらう。必要にして十分な満足感を得て、基地に戻る。心にくき当局の計ひであつた。
明日は武穴の対岸馬頭から○○部隊の陽新攻撃を見に行くといふので、リユックサックに入れる品物を撰り分ける。
かねがね私は、占領直後の街へ憲兵と一緒にはひつて行つたら、住民の動静を観察するうへに便利であらうと思つてゐたから、幸ひ今、九江に同期の五十嵐が漢口○○○長として待機してゐるのに、その話をしてみた。
「そんなら漢
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