極あつさり、この千載一遇の爆撃行に連れて行つた。敵は徳安から退却を開始したらしく、兵力一万の大縦隊を永修、※[#「虫+礼のつくり」、第3水準1−91−50]津街附近の上空から邀へ撃つといふ痛快な作戦である。
「たいがい大丈夫と思ふが、万一の場合は、部隊長の指図に従へばよろしい」
 指揮官らしい口調で、N部隊長はわれわれをちよつと変な気持にさせておいて、部下の各○長に出動命令を下す。
 私はたゞ、満身これ機械とも云ふべきあの胴体の中を、這ひまわつてゐた。
 松原中尉が、ひと通り図上で進路を説明してくれる。今井軍曹は「あれが徳安です」「あれが※[#「番+おおざと」、第3水準1−92−82]陽湖」と機体の下腹部の窓から私にその方向を指してみせる。なにしろその窓は、地上数千米のところにぽかりと下向きに明いた吹きぬけの孔で、のぞいて見るのになかなか決心のいるやうな窓であつたが、私はそのへんのなにやらわからぬ出つ張りを手探りに掴んでからだを乗り出した。「見えるでせう」「見えます、敵の陣地も見えます」「橋梁がみんな破壊されてゐるでせう。われわれがやつたんです」「はあ、これは大変な防禦工事だ。山といふ
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