尼さんは相当商売上手である。この孤児院についての説明書をまた写してみる。
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名称――ノートルダム・デ・ザンジュ孤児院。一八八七年創立。
職員其他――教母一四、男女傭人六〇。
孤児収容定員三〇〇、小学課程及刺繍並にレース製作指導。
乳児四〇〇、田舎の乳母に養育を託す。
卒業生のために刺繍並にレースの賃仕事を授く。
小学校生徒定員一六〇。
経費年額三五〇〇〇ドル。
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かういふ風な孤児院が、支那全土を通じてたしか八十あるとその時聞いたが、帰りに上海で本部といふのに寄つてみると、各地方の孤児院から集まつて来るレースが、こゝで飛ぶやうに売れるといふ話であつた。
丁度授業が終つて教場から出て来る八九歳の少女たちの一群に廊下で行き会ふ。
「みんなあんまり血色がよくありませんね。食べ物などは十分手にはいりますか?」
私は訊ねた。すると院長はちよつと悄げた風をして、
「そんなに蒼い顔をしてゐますか? 見馴れてゐるとつい……」
と云つて、賄のことをくどくどと説明し、米はなんとかなるが、生野菜が近頃は欠乏して、と溜息をついてみせる。
「
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