と手編レースの製作を手職として授ける段取りを説明する。目下、百六十人の孤児が収容されてをり、女の子ばかりなので年頃になるとそれぞれ結婚したり、仕事に出たりするが、さういふ連中が時々遊びに来るからそれが楽しみだといふ話などする。なかには、一生こゝの手伝ひをしたいと志願するものもある。既にこのひともその一人だと云つて、同じ尼さんの服装をした支那婦人を指さす。この婦人はレース工場の係りと見えて、多勢の少女たちにいろんな指図をし、私たちに仕事の細かい手順を見せて歩き、製作品の見本を取出して来る。この品物は買ふことができるかと訊ねると、いくらでも売るといふ。事変がはじまつてお客がぱつたり来なくなり、その上、これまで製品は大部分上海の本部へ送つてゐたのが、その便が途絶えて困つてゐると訴へた。九江へ碇泊する欧米の軍艦があると、艦長はじめ乗組の将校が大てい奥さんや子供たちの土産に買つて行つてくれるのだと、そばからフランス人の尼さんがおどけた顔をして口を挟む。それではわれわれもさうしようと云つてハンケチを数枚選んだ。なかなか贅沢品とみえて、一枚三円から七円ぐらゐする。それで儲けはないくらゐですと、支那の
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