前を彼等にも与へようといふのだ。彼等は前者を選んだのだ」
私はこれに対して私の意見を述べる必要はなかつた。たゞ、「貴下は日本といふ国をご存じか」と問ふたら、彼は、「遂に行く機会がなかつた」と答へた。
学生はどういふ風にして募集するかといふ質問に、傍らの一職員が、全国的に募集して厳密な資格試験をする。一旦入学を許可したものでも成績次第では淘汰するやうにしてゐるから、現在は優秀な学生ばかりだと、自讃した。誰でも宣教師になるといふわけには行かぬから、と、また一人が附け加へた。
私は、これらの支那学生の眼に、日本といふものがどう映つてゐるかを知りたかつた。しかし、今は話をしても無駄であらう。たゞ、宣伝の道は何処にでも通じてゐるなといふ感じを抱いて、この天主堂の静かな門を出た。
次は孤児院である。これも路を距てゝすぐ側の建物がさうであつた。固く鎖された門を叩くと、支那人の門番が、扉をそつと引開けた。案内のモレル氏が来意を告げると、一人の尼さんが出て来てわれわれを迎へ入れた。これは、小柄な婆さんで、なかなかしつかり者といふ印象を与へた。乳児の哺育からはじめて、普通学科の教育、十四歳に達する
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