国の寺院建築をそのまゝうつしたものであるが、材料の貧しいこと、工事の拙いことをしきりに坊さんは弁解する。
病院はすぐ向ひ側になつてゐて、これは別の修道院の管理下にあることがわかつた。院長の尼さんに紹介される。いゝ育ちを思はせる毅然としたフランス女で、私が何者であるかを説明すると、やゝ寛いで話をしだした。
「いまはごく僅かの患者しかゐません。医者はみな引あげました。薬も手にはいりませんから……。それに、今度、日本軍から、この建物を戦病兵収容のために使ひたいから貸さぬかといふ交渉があつたので、上海の本部へ指令を乞ふ手紙を出しました。まだ返事が来ませんが、許可があり次第、お引渡しするつもりで、もう移転の準備をはじめてゐるところです。まあ、ごらんください、別に大した設備もありませんけれど……」
司祭のモレル氏は私の希望に応へて、この病院に関する簡単な説明書をタイプライターで打つてくれた。それを訳してみる。
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名称――聖ヴァンサン病院。一八八〇年、茶及船舶製造に従事する苦力のために創立。最初の経費は年額一四三〇両、現在は年額二五〇〇〇ドルに達す。
構内は四種の病院
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