米・仏関係の教会、病院等四ヶ所に集まつてゐた。しかも、それらのうちには、既にコレラ患者が続々発生して手のつけやうがないくらゐであつたから、わが方では、その対策にとりかゝつた。軍医に協力して、同仁会の斑員が目覚しい活躍をしたのはこの時である。屍体を天主堂の前で焼きながら、難民の一人々々にワクチンの注射をした。軍隊はむろん城外に露営せしめ、全市の井戸水を検査したところ、その大部分に菌を発見した結果、敵軍の仕業とにらんだのであるが、それには確たる証拠はあがつてゐないらしい。
ともかく、この地を棄てゝ逃げた敵軍は、各戸毎に残つてゐる鍋釜を悉く使用に堪へないやうに破毀して行つたといふ事実から推して、その周到ぶりを察することができる。
コレラは二週間で撲滅した。この間、例の外国宣教師の態度について、当時折衝に当つた憲兵の印象が甚だ示唆に富むものである。曰く、米国人は、文句を云はずにわが官憲の命令に従つた。のみならず、応対すべてわれわれに好意的であつて、積極的な協力をも惜しまぬ風が見えたに拘はらず、フランス人は、概して傲慢、不遜であつて、いちいちやることが自分本位である。難民を収容するのはいゝと
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