る方法はいくらもある。近いところでは、星子方面、例の徳安攻撃部隊につくこともできる。更に、江南地区の各作戦部隊に追ひつかうと思へば、これも便宜が与へられる筈である。いゝ機会をとらへれば、今から大別山の彼方へ飛ぶことも一策である。
 武漢攻略の大殲滅戦が眼の前に展開されようとしてゐる時、われわれ一行の望むところはみなおなじであつた。
 雨の日が続いた。
 ×××××の案内で、難民区を訪れた。避難民を一地区に収容し、その整理と救済の事業が始められてゐるのである。七月二十七日同地占領以来、住民の復帰する数は次第に増加しつゝあるが、まだ居住の自由は与へられてゐない。附近の農民でこの町へ流れ込んで来るものがある。難民整理委員会弁事処といふのができ、難民のうちから、元県知事をやつてゐたといふ老人が会長に選ばれてゐる。男は苦力として使役し、賃金を軍部で支払ふと、彼等は、それで軍配給の米を買ふといふ仕組にしてある。女は、野戦病院の雑役婦として働かすやうなことも考へられてゐる。軍への労働力の供給といふ問題は、作戦と同時に重要視されねばならぬ。
 話に聞くと、最初、わが軍が同地にはひると、約五千の難民が、
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