、河幅が狭ばまり流れが急になる。小姑島の奇景を雨のなかに賞でながら彭沢に着く。××部隊の駐屯してゐることがわかる。街を囲む三方の山の向ふ側には、まだ敵がゐるのださうである、稜線のところどころに日の丸の旗が樹つてゐる。歩哨線であらう。背水の陣をそのまゝのこの備へに、私は胸をうたれた。
九江
河岸に面してずらりと建ち並んだ赤煉瓦の洋館は、この港が英国人の手によつて開かれたことを物語つてゐる。
外国租界らしい一区画を抜けて、商店街に出ると、看板だけは麗々しく出てゐるが、どの家も空つぽである。たまに軍隊の宿舎や倉庫にあてられてゐるものゝほかは、日本人の写真屋と時計屋が一軒づゝ店を開き、売切れといふ札のかゝつた酒保の鉄柵が閉ぢたまゝになつてゐる。
ひつきりなしに軍用トラックが通り、砂塵を捲きあげる。髭面の兵隊が鉄兜を背負つて急ぐ。
軍報道部から兵隊宿舎増田旅館に落ちつく。二階のヴェランダは湖に※[#「藩」の「番」に代えて「位」、第3水準1−91−13]み、晴れてゐれば、廬山が一望のうちにある筈だが、生憎雲が低く垂れて眺望がきかぬ。
田家鎮陥落の報到る。
九江から前線へ出
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