の諸員に暇乞ひをした。
「もつとゆつくり、いろいろなものを見たり、お話を聴いたりしたいのですが、これ以上、日本に帰るのを延ばすことができませんから、残念ながら、一旦お別れをします。都合がつき次第、もう一度近い将来に、此処へやつて来て、あなた方のお仕事の、一層進んだ成果を拝見したいと思ひます。これは国民の一人として、あなたがたに期待するところが多く、また個人としては、忘れ難い記憶をもつてこゝを去るからです」
さういふ意味の挨拶を述べた後、門前まで諸氏の見送りを受けて、私は桂班長と共に自動車へ乗り込んだ。
桂班長は、鎮江まで送つてくれるといふ。
十月三十日、江南の秋はこれからといふ静かに晴れた朝であつた。
鎮江の部隊本部で預けた荷物を受けとり、九時三十分、上海行の急行に乗る。
わが軍人軍属によつて満たされた二等車の一隅で、私は、今度の従軍の目的がこれで達せられたのであらうかといふ不安な気持を懐きつゞけた。
これらの日本人の壮んな往来が、この支那といふ土地にどんな足跡を残すか。後世の眼がどれほど厳しくわれわれの時代の責任を問ふても、われわれはそれに十分応へるだけの覚悟はしなければ
前へ
次へ
全159ページ中148ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング