で、それなしには、治安の真の意味に於ける確保、即ち、残敵の蠢動を封じて占領地域を拡大するといふ軍事行動は勿論、治安と並行して発展すべき一般平和建設工作の基礎条件が備はらないことになるわけである。
 当地区では、部隊長のこの着眼によつて、平素の訓練が行はれてゐるばかりでなく、例へば外出の如きも、内地の勤務同様一週一度と定め、しかも散歩区域を限つて住民との不用意な接触を避け、日本軍の如何なる面も彼等の生活を脅かさないといふ事実を明かに示すやうにしてゐるのである。
 城門に配置された衛兵の態度をみても、場所柄、いくぶんは実戦本位になりがちであるところを、こゝでは厳に平時の姿勢を崩さず、最も整然たる規律的動作によつて、戈を収めた「日軍」の頼もしさを住民の頭に刻みこませてゐる様子であつた。
 部隊長は更に云ふ――
「兵隊には、少し窮屈でせうが、これも結局は兵隊の為になるんです。第一に事故をおこしません。住民は益々兵隊に好意をもつて、必要な物資をどんどん供給してよこします。敵の密偵などがはひり込むと、すぐに知らせて来ます。それから、たゞ怖いものと思つてゐた日本軍が、かういふ風に滅多に街へも出ないと
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