句を何気なく書きつけて来たから、参考の為に写してみる。
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客至莫嫌茶味淡
山居不比世情濃
入吾門不分三教
到此地都是一家
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 ゆかしい言葉を久々に聞く思ひである。
 もう一度是非寄れといふ萩原の言葉を胸に畳んで、われわれは上海へ引つ返した。翌日蘇州に向ふためである。
 何時何処でといふことは差控へるが、われわれ一行がある小さな駅へさしかゝると、支那の小学生の一団が日の丸の旗と五色旗とを打ちふり、日本人の先生に引率されて、たしか「白地に赤く」といふ唱歌を合唱しながら、プラットフォームに整列してゐた。汽車が止つて、それがわれわれ一行を迎へてくれたのだといふことがわかつた。私は、正直なところ、なんだか変な気がした。顔をあげてゐられないくらゐであつた。先生の美しい意志が、子供たちの口を通じて、なにか無惨な響きを私の心に伝へてゐるのである。私は、その先生に対する満腔の敬意と感謝の念に誓つて断言するが、これは決して、私の個人的偏見ではないと信じる。民族心理の取扱ひの問題として機微に触れてゐるのである。みんなで真面目に考へなければならぬ問題だと思ふ。
 
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