と覚つたらしく、なんども肯づく恰好をしてそれを何処かへ脱ぎすてゝ来た。
 かういふ些細なことを除くと、他の都市に見られるやうな街頭の抗日色はまつたくこの土地では一掃されてゐるやうである。「有日無我、有我無日」といふやうな宣伝標語を何処の壁にも見ないことは、私の今度の旅行を通じて、たゞこの町だけであつた。

     漢口陥落市民祝賀会

 十月二十七日の昼、桂班長がやつて来て、今日の祝賀会を是非見てくれと云ふ。
「だいたい三万人ぐらゐ行列に加はる予想です。体育場まで繰り込んで、大々的に気勢をあげます」
「小川さんも出掛けられますか」
「もちろん、将校は全部列席してもらふ筈です」
「行列の中へはひるんですか」
「われわれは馬に乗つて行きますから」
 なるほど、本部の前にはもう、将校たちがそれぞれ馬に跨つてゐる。
 私は渡辺○兵隊長のすゝめてくれる馬に乗つた。
「この馬は蹴りますから、どうぞお気をつけになつて……」
 と、当番が注意する。厄介な馬に当つたものだと思ひながら、私は絶えず後ろに気を配つた。
 いよいよ行列が動きだす。
 綏靖隊(帰順支那兵をもつて編成した軍隊)を先頭に、警察隊、
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