。さうかと思ふと、われわれの案内に立つた若僧は住職の秘書らしかつたが、これは眉目秀麗、態度慇懃、その歩きつき、からだのこなし方、悉く貴公子然とした雅びなリズムがあつて、なかなか演劇的である。言葉の調子も、荘重で柔らかく、銃剣と軍刀の前で、悠然たる落ちつきを示し、
「この寺には不良分子はをりません。ご安心下さい」
 と、媚びのない微笑を含んで云つた。
 さう云はれて見ると、あの本堂の僧侶のなかに万一蒋介石がゐたとしても、恐らくそいつは発見できなかつたらうと思ひ、私はふと可笑しくなつた。
 あまり広くもない敷地のなかには、畑が作つてあり、池が掘つてあり、牛が飼つてある。池の中の島に離れ家があつて、これは僧侶たちが修業のために若干の時日此処に籠るのださうだが、この僅かな池の水が外界との連絡を絶つとするところ、なかなか形式的で面白い。
 泊り客のための一棟が鉄柵の彼方に設けられてゐる。そこは応接間といくつかの寝室とから成り、外来の賓客は此処で幾日かを過すことができる仕組みになつてゐる。すべて欧風を交へたセットの、東京の某々寺といふが如きである。
 大熊部隊長の名で、日支両軍戦没将士の霊のために
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