てが亡びて、すべてが新らしく生れて来なければならない劇壇――そこから生れて来たものは果して何でしたらう。営利劇場の基礎もない競走的宣伝、劇場の全滅をいゝ事にして、そこここに首をもたげた怪しげな新劇団、バラツク俳優、バラツク演技、バラツク興行師……。
私はいよいよ絶望しました。私は唯読んで書かうと思ひました。書いて読まうと思ひました。如何に叛かれても憎む事の出来ない演劇を狭い書斎の内に、それよりも狭い自分自身の頭脳の内に作り上げようとしました。そこへ欧羅巴から土方が帰つて来ました。
そして吾々の劇場を建てようと思ふがどうだと言ふのです。今ならバラツク劇場の建設が許される。そして、こゝ五年間はそれを吾々の舞台とする事が出来る。本建築で吾々が劇場を持つと云ふ事はいつ出来るか解らない。バラツクなら吾々の劇場が持てるのだ……。
吾々の劇場――自分達の研究劇場――それが持てるといふ事は、私にとつて可成り強い誘惑でした。私は何も考へず唯それだけの誘惑に引つぱられて行きました。「よし、やらう」私は直ぐに賛成しました。それがこの二月三日でした。
それから、この四ヶ月――それは総ての為の準備に費さ
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