は、そんなことゝは知らなかつたから、なるべく一枚に沢山はいるやうに二十五字詰を使つてゐた。
同君は更にかう云つた。
「僕は戯曲つてやつはよくわからないから、こいつはひとつ山本有三君に読んで貰はうぢやないか。僕の方から廻しておかう。紹介するから一度訪ねて行つてみたまへ」
四
山本有三といふ名前を僕はその頃知つてゐるにはゐたが、作品は一つも読んでゐなかつた。外国へ行く前、赤坂のローヤル館で武者小路氏の「その妹」を観た、その時の舞台監督として知つてゐたのである。勿論、新聞か雑誌でその後名前を見たやうな気もするが、文壇劇壇に於ける同氏の地位といふやうなものはどうも見当がつかない。たゞ豊島君が信用してゐる劇作家なんだから、さういふ専門家に僕の書いたものを見てもらへれば有りがたいと思つた。しかし、念のために、といふよりも寧ろ、礼として、同氏の作品を少しは読んでをかねばならぬ。その時何を読んだかはつきり覚えてゐないが、たしか「津村教授」ではなかつたかと思ふ。
それに豊島君の話では山本氏が独文科の出身だといふことだから、僕のどつちかと云へば「フランス臭い」ものを頭から軽蔑しはせ
前へ
次へ
全41ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング