島国性、事大性、愚昧性を、たゞにその思想のなかばかりでなく、その表現形式の、一見豪華な、洗練された、又は単純素朴な伝統のなかに、われわれは発見することができるのである。
 われわれは、今日の世相のなかに、自分自身の周囲に、否自分自身のうちにさへ、既に「歌舞伎的なもの」を如何に多く、如何に根深く感じつゝあるか。われわれは、歌舞伎を観ずに既に歌舞伎に食傷してゐるのである。
 僕は、日本人自らが国宝と叫ぶこの伝統的舞台に対して、たゞ、反感を以てこれを斥けようとはせぬ。寧ろ、愛情を以て、「汝、占むべき地位を占めよ」と宣告する。
 さて、僕は、翻訳をつゞける傍ら、戯曲を書けるなら書いてみようといふ野心を棄てることができず、旧友で作家として名を成してゐるたゞ一人の人物を頭に思ひ浮べた。それは豊島与志雄君であつた。
 八月のある日のこと、豊島君を千駄木に訪ねて、例の「黄色い微笑」の一読を乞うた。その時は、たしか、「古い玩具」と題を改めてゐたと思ふ。
 豊島君は、その原稿を僕の手から受け取つて、先づかう云つた。
「君、原稿用紙は二十字詰を使ふ習慣になつてゐるんだ。書き直した方がいゝな」
 なるほど、僕
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