伸びる力を内に養へ
しかしながら、もう今となつては、看板のことなどは問題でない。このまゝ押して行くより仕方がないのである。たゞ、実際の仕事の上で、支那人の面目を尊重してやればよからう。ところで、私は、彼地に於て日本人がどうあらねばならぬといふ前に、それが既に国内に於て、さうあることの必要を力説したいと思ふ。
戦場の到るところで、われわれは、日本人の日本人らしさに出会ふ。戦場なるが故に、特に平生の日本人でなくなつてゐるといふ事実には一度もぶつからなかつた。これから支那で建設的な事業にたづさはる日本人が、国を離れたから急に日本人ばなれがするといふ風には考へられない。国家としても、国民の上に及ぼす力以外の力を、外国なるが故にその民衆の上に及ぼし得るといふ理由は成り立たないのである。
日本及び日本人の幾多の美点にも拘はらず、文化といふものに対する考への狭さ、固苦しさ、国家の発展といふ問題に対する希望の不透明、一種のファナチズムは、なんとかならないものかと思ふ。日本文化の宣伝に日本の自然や単なる特殊性を持ち出す非常識が繰り返され、西洋は物質文化、東洋は精神文化などゝいふ無意味なスローガン
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