私の従軍報告
岸田國士
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戦線は無限に広いこと
武漢が落ち、広東が陥ち、わが軍の作戦区域が著るしく拡大されたことは云ふまでもないが、私の今度の中支従軍を通じて、現実にこれは大変だと感じたことは、普通第一線と呼ばれてゐる作戦軍の正面以外に、鉄道の沿線と揚子江流域の重要な都市を囲む殆ど中支一帯の地域に残敵の有力な部隊が蟠居して、わが占領地区を脅かしてゐることである。これらの敵は、勿論、種々雑多な素質と編成によるもので、必ずしも恐るゝには足らぬが、なかには相当の訓練と装備を有する正規軍も交つてゐることであるし、中央の指令もなかなかよく行き亙り、住民と腹を合せていざといふ決心さへつけば、わが警備の手薄に乗じ兼ねないのである。
この意味で、上海より武漢に亙る後方勤務の各部隊は、一地に駐屯するものと、絶えず移動するものとを問はず、ひとしく対敵行動の姿勢を瞬時も崩すことのできぬ特別な事情にある。
この度の事変は、政治的にもある例
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