領域へ足を踏み込むことでもない。
 逆に、女は、真に男らしさ男の前では、おのづから「しをらしく」なるものだといふ微妙な心理を忘れてはならぬ。異性間の問題については、あまり立ち入つて云ふべき機会ではないから、これくらゐにしておくが、要するに「武」の精神は、古来、日本婦道の健全な発展のうちには、いろいろなすがたで示されて来てゐるのである。「しとやか」といふことは女性の威儀に外ならぬ。
 男子の側に於て「武の道」が顧みられなくなつた時代、女子の側でのみこれが守られてゐる道理はない。
 しかし、今日、日本の文化は、再び伝統の光被によつて、その本来の面目を取戻さうとしてゐるのである。
「貞節」といふことも、女性の凜々しい一面を発揮したものであるが、それが日常の言動となつて如何に現はされるかといふことを、最近、人々はあまり等閑に附してゐる。日本の女性の「たしなみ」は、こゝにもひとつの大きな課題をもつてゐたのである。見知らぬ男と口を利くその利き方において、女の「たしなみ」に遺憾なくあらはれ、電車の乗り降りひとつで、その女の「貞潔」の程度を知ることができる。不必要な媚態とあまりに繊弱な風姿とは、それだ
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