妻の日記
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)私事《わたくしごと》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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かういふ場所で私事《わたくしごと》を語ることは、由来、私の最も好まぬところである。如何なる理由があらうとも、誰がどう勧めようとも、私は今日までその気持を押し通して来た。従つて、小説の形ですらも、「私」の身辺を題材とすることは、それがたとへ現代文学の主潮であらうとなからうと、私は頑として享け容れなかつたのである。
ところが、去年は母の死に遭ひ、今年はまた妻を喪つて、私の生活は激しく揺り動かされ、「家」といふものの存在がはつきり私の全体につながつてゐる事を痛感させられた。それはやがて、私のこれからの仕事にも影響し、また、世の中を観る眼をもかへさせるだらうと思ふほどである。私がこれから、いくぶんの勇気をもつて語らねばならぬ「私事」は、いはゆる私一個に関することではなくて、おそらく万人に共通の問題であり、殊に
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