ャルド(前衛劇)なる別名を生んだのである。従つて、アヴァン・ギャルドの芝居といへば、「素人臭い」のが特色のやうに思はれ、また実際、ヴィユウ・コロンビエ座のやうに有名な劇団でさへ、素人俳優が堂々と舞台に立つ有様であつたが、これらの劇団によつて演ぜられる脚本は、如何に独創的なもの、如何に新奇な様式を取り入れたものと雖も、決して、職業俳優の「表現能力」を越えたものなどはなく、却つて、本を洗へば、その脚本の作者達は、いつかどこかで観た「職業俳優」の演技から、貴重な示唆を与へられ、劇的|幻象《イメエジ》の構成に、決定的な基礎を求めてゐることがわかるのである。
 日本の洋画家が、よく、かういふことを云ふ。――西洋で描いたやうな油絵の色は、日本に帰ると、どうしても出なくなる。自然をモデルとする関係で、自然そのものの相違が、この結果を生むのだらうが、ただ、そればかりではない。自分の眼にできてゐた色彩感が、日本へ帰ると、どうしても鈍るんだといふ気がする……。
 この話は、聞きやうによつては、なんとなく弁解じみてゐて可笑しくもあり、また、ある場合には、気障でさへもあるのだが、よく味はつてみると、さういふ気
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