劇壇暗黒の弁
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)幻象《イメエジ》

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(例)劇的|幻象《イメエジ》の

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 演劇の不振といふことを、近頃よく世間では問題にするが、それが悦ぶべきことか悲しむべきことかといふ議論になると、私には、殆んど見当がつかないと云つていい。
 一国の一時代に於ける演劇が、特に盛んであつたところで、少しも悦ぶべきことでなく、殊にその盛んでありやうによつては、寧ろ厄介千万だからである。
 興行者乃至俳優の側から云へば、劇場に見物が殺到する世の中を望んでゐるに違ひないし、それも亦、ある意味では結構なことに違ひないが、さういふ意味での演劇の隆盛時代なら、野球と活動とバアさへなければ、いつでも現出しさうに思はれる。
 やや尤もらしい説として、脚本の饑饉といふ状態を挙げるものもあるが、元来、どんな天才でも、「芝居を観ない」で戯曲を書く筈はなく、今日、「芝居を観ない」のは、独り天才に限らない
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