パトラン』下つて、シエイクスピイヤ、モリエールなどの作品中、笑劇と云へば、問題の外にされてゐた時代があつた。然るに、近代に至つて、フアアスは立派に、悲劇、喜劇と並んで、劇文学の一分野を占め、クロムランクの『堂々と妻を寝取られる男』の如きは、大戦後欧洲の劇界に、しかも、先駆的劇壇に於て、文字通り一大センセイシヨンを惹起したほどである。
わが国に於ても、早晩、フアアスの鑑賞眼が高められ、優れたフアアス作家が現はれて来るだらうが、さういふ時代に先行して、わが関口次郎君が、純粋な笑劇に手を染め、可なりの成功を収めたことは、正に特筆すべき事件である。
昨年新劇協会が帝劇の舞台にかけたのを機縁に、浅草の大劇場でも、これを上演して、大に此の作品のポピユラリテイイを証明したが、公衆は、たゞゲラゲラ笑つてばかりゐて、作者の云はうとするところを果して耳に入れたかどうか。況んや、曾我の家式喜劇と断然区別さるべき一点に敏感な眼を向けたかどうか。
『女優宣伝業』――こゝで作者は、自ら進んで写実の域を脱け出さうとした。誇張と想像とを恣にした。ところが、僕は、なほ作者に註文がある。それは、此の種の作品で、もう
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