たゞものならず。
 おきみちやん、これも
 裾を合せて、坐り直せば
 もう、寄せ玉
 せりにせる面憎くさ。
 カラコロ カラコロ
 冬の夜更けの下駄の音
 コツコツコツ
 石屋の職人
 カチツカチツ
 高天ヶ原
 ポカポカポカ
 あやまつた あやまつた

「二百みツつう、二百むツつう…………」
 湯上りの
 お神さんの銀煙管が
 キラキラキラ
 モールス符号
 ――ざ……ま……み……ろ……

 タッチ……占めた。
 しやら臭い、カラマッセ
 スルスル、クルリ
 旅費が足らない
 残飯頂戴。

「ふたッつう、よッつう…………」
 さて、弱つた。
 引つ掛け?
 押し抜き?
 まゝよ、鉄砲……。
 手玉、死なず
 先玉、返らず
 赤々はかぶり
 半押しは、近すぎてリク
 さて、弱つた。

 むかうさんは
 頤を一と撫で
 裏模様の
 錦紗の
 襦袢の袖で
 眼鏡を一と拭き
 ――にやり――
「お神さん、熱いお茶を一杯」
 おきみちやん、助けてくれ。

「今のは、なんだい」
「あれはねえ…………」
 と、おきみちやんは意味ありげに
 お神さんの顔をのぞけば
 お神さんは案外落ちついて
「玉ゴ
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