玉突の賦
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)空《から》クシヨン
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「いくつお突きなります」
「さあ、しばらく突かないんですが……」
 玉突く男は曲者。
 三十? 四十? 五十? …………
「ぢや、百にして見て下さい」
 ――こいつ、百なもんか!

「どうぞ」
「さうですか」
 コツン、コツリン……。
 ――ふたあつ……。
 コチツ、ポツン……。
 ――ふたつ当り……。
 やれ、やれ。

「しつかりおやんなさいよ」――ゲーム取りのおきみちやんが眼で怒鳴る。
 まづ、煙草を一ぷく。
 ――いつうつ…………なゝあつ…………とおお…………十三…………十六…………
 おれは時間を空費してゐる。

 こいつは上等な××タマだ。
 厚く当れば開く。
 薄く舐めれば棒になる。
 押せば狂ふ。
 引けば逃げる。
 こいつは上等な××タマだ。
 が、扨て、弱つた。

 そつと空《から》クシヨン。
 ――よせ、よせ。
 軽くマツセ。
 ――あぶない。
 えゝい、まゝよ、ピチン。
 くそ、ミツスか。

「おきみちやん、ぼく、あといくつ?」
「まだ一本返りません」

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