「むかうさんは?」
「十八ゲーム」
「むかうさんも、お当りにならないな」
「おつと、そこには、お茶碗があつてよ」

「大まわし…………」
「いや、まづ、こつちから…………」
 こいつ、きたたい[#「きたたい」はママ]。
「引つ張つた!」
「先玉が帰つて来ない」
 うそつけ。
「当りゲーム」
「どうぞ」
「失礼」
 なんだ、あの腰つきは。
 おきみちやんが、鉛筆をしやぶり出した。

「百ぢや、少しお強かない、この方?」
 おきみちやん、察してくれ。
 おれも男だ。
 おまへは女だ。
 おきみちやん、この方は泥棒だよ。

 牧場のやうな緑色の羅紗の上を、魂のやうに、白玉と赤玉とが、緩く、速く、思ひ思ひの方角に走つて行く。
 電燈がつけば、ぱツと象牙の肌が光る。
 おきみちやんが、しびれた股のあたりを撫ではじめる。
 水色の襟に囲まれた、その三角の胸が波をうつ。

「もう一度いかゞ」
 男と男とは、敵意と友情とをほどよく交へた眼で、さりげなく笑ひ合ふ。
「いざ」
「いざ」
 棒を取つて立ち上る。
 この槍で、あの胸元を、やツと一と突き。
 待て、待て、チヨークがついてない。

「どうぞ」

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