の前身なんか僕にや興味はないよ。家庭教師だつて、ホテルのハウス・キイパアだつて、大した変りはないだらう。
るい お煙草でございますか。取つて参りませう。
京野 いゝよ、いゝよ。バアは開いてるだらうな。
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起つて、右手にはひる。
長い間。
やがて、また、二階から、三十八九の、和服に現代風の好みをみせた女が、気取つた足取りで降りて来る。土屋園子夫人である。
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るい 御退屈でございませう、奥さま。
夫人 いゝのよ。どうせ、退屈をしに来たんですもの。(腰をおろす)
るい お話相手もなくつて、ほんとに……。
夫人 さう云へば、今の書生さん、時々話をしかけたさうにするんだけど、あれ、どういふ人?
るい あら、まだ御存じないんでございますか。あの方、京野子爵の若様でいらつしやいますんですよ。
夫人 と、称してるんぢやなくつて?
るい 飛んでもない。始終、お邸の方々がお見えになります。さつぱりした、いゝ方でございますよ。
夫人 学校は何処?
るい さあ、それは伺ひませんでしたけれど、も
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