も、亜米利加通ひの船でなけれや見られないよ。
るい 恐れ入りました。その船には、十六年乗つてをりました。あの時分のことは、一生忘れられません。
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女が、化粧をすまして、階段を降りて来る。
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男 食事にするかい。
女 えゝ、あなたは?
男 何時《いつ》でもいゝよ。
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男、起ち上つて、歩き出す。
二人の姿が消える。
入れ違ひに、若い男が二階から降りて来る。京野精一(二十一)である。
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るい ピンポンのお相手をいたしませうか。
京野 今日は疲れた。また歩き過ぎたよ。(椅子にかける)
るい そんなにお弱いやうには見えませんがねえ。でも、御無理を遊ばしちやいけませんよ。折角御養生にいらしてるんですから……。
京野 家庭教師みたいなことを云ふなよ。
るい あら、ほんとに今日は、不思議な日ですわ。
京野 どうしてだい?
るい みなさんで、あたくしの前身をおあてになるんですもの。
京野 君
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