上り、急いでスヰッチをひねる。こつちを見てゐる男と、視線が会ふ。
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るい 海がいゝ塩梅に静かでございます。
男 ホテルも静かだね。
るい はい、でも、一昨日までは、お部屋が足りないくらゐでございました。
男 ほう、そんなこともあるかね。
るい 新婚旅行のお客様が、大層お見えになります。それと、お子様がたの学校休みで……。こちらは、御家庭向きになつてをりますもんですから……。
男 君は永くゐるの、このホテルに……?
るい はい、まる四年になります。只今も、そのことを考へてをりましたんです。此処へ参りましたのが、私の、五十一の春……と申しますと、変でございますが、やはり、時節が今頃で、玄関前の桜が、ちらほらと咲きかけてをりました。
男 話が面白さうだね。僕は君の様子をみて、何か変つた生活をして来た人のやうに思つたのだが、すると、此処へ来るまでは、船にでも乗つてゐたの?
るい どうしてそんなことがおわかりになります。
男 別にわかるわけぢやないが、その洋装の着こなしは、板についたところがある。どうして
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