ますので、わたくし、ほんとにうれしいんでございますよ。海はよろしうございますね。これで、船に乗つてをります頃は、そんなでもございませんでしたけれど、陸へ上りますと、海が恋しうございます。それに、海の上でみる空は、また格別でございますからね。御承知でございませうが、夜、甲板に出て、星を見てをりますと、世の中の苦労を忘れてしまひます。第一、あの星の下で、人間が醜い争ひをするなどとは考へられません。さきほども、土屋様の奥さまに聴いていたゞきましたのですが、たとひ、そこで、わたくしを欺し、わたくしに背《そむ》いた男がゐましたにしましても……。
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この時、土屋夫人が、京野と共に扉をあけてはひつて来る。
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京野 明日《あした》、あの鳥が生き返つてゐたら、僕の勝ですよ。
夫人 えゝ、よろしいわ。あなたに勝たしてあげたいの、あたしは……。むろん、あの鳥のためによ。
京野 さうでせう。ぢや、おやすみなさい。
夫人 さよなら……。
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京野は、ひとりで、二階に上つて行く。
夫人は、
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