に思へるんだらう。四半世紀、限られた土地の上を経巡《へめぐ》つてみろ。到る処で、嘗て何かしら交渉のあつた人間にぶつかる。両方で、それを覚えてないことが多いだけだ。

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この時、るいが、また現はれる。
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るい  風呂《バス》へは、何時頃お召しになります?
男  君たちが手のすいた時でいゝよ。
るい  わたくしどもは、そのためにをりますんでございますから……。
男  さうか、却つて、手が早くすかないわけだね。ぢや、こつちで勝手にするから、かまはずにやすみ給へ。
るい  わたくしどもは、十時半に退《ひ》けでございますから……。

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土屋夫人が、はひつて来る。一旦、二階へ上り、再び降りる。ホールへ行き、新聞の綴りを取つて来て、中央の椅子にかける。彼女が、その新聞を読んでゐる間に、夫婦の女の方が、何か男に耳打ちをして二階に上る。
京野が、外から帰つて来る。夫人は、顔をあげて、その方を見る。
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京野  ちよつと、
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