らゐ、してさしあげますわ。(腰をおろす。笑ふ)
京野 いやだなあ、さう皮肉に出られちや……。しかし、小母《をば》さんだつておんなじレコードには聴き飽きてらつしやる筈ですよ。
夫人 ちよつと、お待ちなさい。人のことを小母《をば》さんだなんて、あなたは、いつたい、おいくつ?
京野 僕、二十一です。小母《をば》さんは?
夫人 不良ね、あなたは。
京野 あの婆あが、なにか喋《しやべ》つたんでせう。
夫人 婆あつて、だれ?
京野 僕から御注意申上げときますが、あの婆あに、話をしかけると、うるさうござんすよ。僕の母に云はせると、少し頭へ来てやしないかつていふんですが、そんなこと、お気づきになりませんか。
夫人 なるほど、人を気狂《きちが》ひにしてしまふつていふのは、便利ですわね、でも、気狂《きちが》ひが、ほんとのことを云ふ場合だつてありますし、どこからがさうだとは、云ひきれませんわ。今、実は、あの人の、身の上|話《ばなし》つていふのを聴かされたんですの。あなた、お聴きになつた?
京野 いゝえ、僕には聴かせませんが、僕の母には、何時《いつ》か、やつたさうですよ。閉口したつて、さう云
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