まひません。まだ早いんですから……。
るい  それでは、奥さま、こんな話をお聴き下さいました序《ついで》に、ひとつ、奥さまの御意見をおつしやつて下さいませんでせうか。
夫人  意見ですつて?
るい  いゝえ、ね、奥様、今の、その男でございますがね、ほんとに、どうお思ひ遊ばします? 今更、どつちでもいいやうなもんでございますけれど、ひとつ、参考までに、奥様のやうな方のお考へを伺つておきたいと思ひまして……失礼でなければどうぞ、是非、御腹蔵なく……。
夫人  その男の、態度についてですか? 意見つておつしやるのは……?
るい  はい、まあ、態度と申しますか、その気持でございますね。わたくしに対しましての。
夫人  さあ、それは、あんたのお考へ通りでいゝんぢやありませんか。どう考へなけれやならないつていふ問題でなく、人によつて、どう考へてもいゝ問題だと思ひますね。あなたは、なかなか、哲学者よ。
るい  学者なんて、滅相なことでございますけれど、いろいろ考へてみるのは好きでございましてね。
夫人  えゝ、まあ、議論はよしませう。(さう云つて、大儀さうに横を向く)
るい  はい……。わたくし、ち
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