いゝえ、どういたしまして……。では、そろそろ、本筋に……。
るい これは、まつたく、内証話でございますよ。いゝえ、内証にもなんにも、これまで誰にも話したことなんかないんでございますけれど、奥さまに、たつた一言《ひとこと》、「お前の気持はわかる」と、さうおつしやつていたゞきたいばかりに……。でも、あんまりなお話でございますからね……。まあ、旧《ふる》いことといふだけが、幾分、お聴きづらくなく、聴いていたゞけるかと存じます。
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先程も申上げました通り、船の中では、お客様を除けば、女と申しましても、わたくしの外、六人つていふ人数でございました。そのうち、亭主持ちが二人、あとの三人は、二十《はたち》を越したばかりといふ娘つこでございませう。やかましく云はれながら、蔭で何をいたしてをりますか、わかりやいたしません。それに、一方が、御承知の荒《あら》くれでございます。わたくしどもの前でさへ、ずゐぶん眼にあまることもございました。さういふ中で、年も年でございましたけれど、わたくしだけには、誰一人、戯談《じやうだん》を云ひかけるものもございませんでした。それでも、三十五つて申
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