るい  それがでございますよ。奥さま……わたくし、怪我をいたしましてね、こゝの骨を(胸を押へ)二本、ポキリと折られてしまひましたんですの。
夫人  まあ、危《あぶな》い。何処かから落ちでもして……?
るい  いゝえ、ロープに足をすくはれたんでございます……。荷物を揚げますときにね……綱がございませう……あれでよく、やられるんでございますよ。
夫人  それでも、船は懲りませんか?
るい  自分の過《あやま》ちでございますもの。
夫人  さう、さう、さつきの、肝腎のお話は……?
るい  なんでございましたつけ……あゝ、わたくしのロマンスでございますか。……(笑ふ)
夫人  (これも、釣り込まれて笑ふ)御自分のロマンスとおつしやるからには、よつぽど自信がおありなのね。
るい  (また笑ひこけ)奥さま、いけません……。ぢや、もう、それは申上げません。
夫人  あら、そんなことつてないでせう。前置きだけ聴かしといて……。
るい  それも、長たらしくね……。いえ、別に前置きのつもりぢやなかつたんでございますけど……話が、から下手《へた》でございましてね……。余計なことばかり申上げました。
夫人 
前へ 次へ
全38ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング