るい それがでございますよ。奥さま……わたくし、怪我をいたしましてね、こゝの骨を(胸を押へ)二本、ポキリと折られてしまひましたんですの。
夫人 まあ、危《あぶな》い。何処かから落ちでもして……?
るい いゝえ、ロープに足をすくはれたんでございます……。荷物を揚げますときにね……綱がございませう……あれでよく、やられるんでございますよ。
夫人 それでも、船は懲りませんか?
るい 自分の過《あやま》ちでございますもの。
夫人 さう、さう、さつきの、肝腎のお話は……?
るい なんでございましたつけ……あゝ、わたくしのロマンスでございますか。……(笑ふ)
夫人 (これも、釣り込まれて笑ふ)御自分のロマンスとおつしやるからには、よつぽど自信がおありなのね。
るい (また笑ひこけ)奥さま、いけません……。ぢや、もう、それは申上げません。
夫人 あら、そんなことつてないでせう。前置きだけ聴かしといて……。
るい それも、長たらしくね……。いえ、別に前置きのつもりぢやなかつたんでございますけど……話が、から下手《へた》でございましてね……。余計なことばかり申上げました。
夫人
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