せば、ねえ、奥さま、世帯を持ちませんだけに、まだ、心も、からだも、そんなにお婆さんにはなつてをりません。さういふ人たちのふしだらな真似《まね》を、一方では苦々《にが/\》しく思ひながら、一方では、実のところ、まあ、嫉《や》けるとでも申しますんですか……。御免遊ばせ、こんな言葉使ひをいたしまして……。お笑ひになりますけれど、それは、※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]ぢやございません。今ですから、申上げられますんです。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
夫人  それで笑つたんぢやないんですよ。あなたの率直なお話が、いゝ気持なんですわ。
るい  はい、率直も、度《ど》が過ぎてはと存じますけれど、今日は、真《ま》つ裸《ぱだか》になつてみる気でございます。後がどんなにせいせいするだらうと思ひますと、もう恥も外聞もございません。それに、奥さまのやうな、お優しい、物事のよくおわかりになる方《かた》に、洗ひ浚ひ聞いていたゞけるなら、ちつとも心残りはございませんです。
[#ここから1字下げ]
で、まあ、そんなわけで、一年ばかりは過ぎてしまひました。そ
前へ 次へ
全38ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング