ちよつと、お待ちになつて……。お話がよくわかり兼ねますが、つまり、奥さまが、こちらへお見えになる筈なんでございますね。で、おいでになりましたら、どういたしませばよろしいんでございますか。あたくし一存では計らひ兼ねますけれど、主人とも何れ相談いたしまして……。はい、それはもう、よく心得てをります。
男乙 それでだね、今の話ね、僕はいろいろ考へた末、どうせ外国なんかへ行つたつて、僕の頭から君が去ることはないんだし、君の方でも、僕が何処かに生きてゐるつていふことは、なんとなく、気持を楽にさせないだらうし……。
女 え? なにをでございますの?
男乙 気持をだよ、気持を楽にさせないだらうつていふのさ。
女 それで……?
男乙 それでね、僕は、決心したんだよ。
[#ここから5字下げ]
男乙は、かう云ひながら、右手を伸ばし、椅子の上に脱ぎ捨てたズボンのカクシから、拳銃を取り出し、それを弄びはじめる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
女 御決心つて、それは、あたくし、想像がつき兼ねますが。
男乙 今、僕の手に握つてゐるものを見たら、す
前へ
次へ
全21ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング