ちよつと、お待ちになつて……。お話がよくわかり兼ねますが、つまり、奥さまが、こちらへお見えになる筈なんでございますね。で、おいでになりましたら、どういたしませばよろしいんでございますか。あたくし一存では計らひ兼ねますけれど、主人とも何れ相談いたしまして……。はい、それはもう、よく心得てをります。
男乙  それでだね、今の話ね、僕はいろいろ考へた末、どうせ外国なんかへ行つたつて、僕の頭から君が去ることはないんだし、君の方でも、僕が何処かに生きてゐるつていふことは、なんとなく、気持を楽にさせないだらうし……。
女   え? なにをでございますの?
男乙  気持をだよ、気持を楽にさせないだらうつていふのさ。
女   それで……?
男乙  それでね、僕は、決心したんだよ。

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男乙は、かう云ひながら、右手を伸ばし、椅子の上に脱ぎ捨てたズボンのカクシから、拳銃を取り出し、それを弄びはじめる。
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女   御決心つて、それは、あたくし、想像がつき兼ねますが。
男乙  今、僕の手に握つてゐるものを見たら、す
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