男甲 もし、もし、わたし、楠見です。どなたですか。
男乙 ……(受話器を耳より放し、途方に暮れる)
男甲 もし、もし、わたしに御用ですか、家内に御用ですか。
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女、恐る恐る電話に近づく。
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女 どら、あたしに貸して御覧なさい。この電話、よく聞えないのよ。(受話器を男甲より受取り)もし、もし、こちら、楠見でございますが……。もし、もし……。
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この時、男乙、再び受話器を耳に当てる。男甲、元の席に帰り、また新聞を読む。
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女 どうしたんだらう、ちつとも聞えないわ。間違ひか知ら……もし、もし、もし、もし……。
男乙 あゝ、やつと通じた。僕だよ……。大丈夫かい。もう一度だけね、これでおしまひだ。大将、なんにも気がついてやしまいね。
女 あ、さやうでいらつしやいますか。さあ、如何でございますか……。
男乙 話してもいゝね。もう、寝てたの?
女 どういたしまして……。
男乙 迷惑だ
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